知ってなるほど!脳科学豆知識
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第9回目 地球の環境変化を予測する仕組み〜概日リズム〜

地球上の生物は、およそ1日24時間のリズムを刻むメカニズムを備えています。これは概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれ、私たちほ乳類をはじめ、植物、昆虫、魚、バクテリアなど、地球上のあらゆる生物で観察されます。概日リズムは、地球の約24時間の自転周期に伴う環境の変化に適応するために、生物が長い進化の過程で獲得した能力であり、生物は地球の環境変化を予測して、エネルギー効率を高めたり、食物により効率的にありつくなどして、自身の生存を有利にしています。

私たち人間は、夜になると眠くなり、朝が来ると目が覚めます。また体温やホルモン分泌などにも概日リズムがあることが知られています。私たちの皮膚、肺、胃などなど、生殖細胞(精子や受精卵)をのぞく全身の細胞に概日リズムを刻むメカニズムが存在します。概日リズムの司令塔は脳の深くにある視交叉上核(しこうさじょうかく)にあり、全身の細胞にある体内時計のリズムを束ねています。いわばオーケストラの指揮者の役割をするのが視交叉上核で、約2万個の神経細胞から構成されています。げっ歯類での実験では、視交叉上核を外科的に切除すると動物の概日リズムが見られなくなり、さらに概日リズムの周期が異なる動物の視交叉上核を移植すると、動物のリズムは移植した視交叉上核のリズムに依存したものに変わってしまいます。

近年、概日リズムは細胞分化や記憶学習とも密接に関係していることが分かってきました。例えば、幹細胞や初期化されたiPS細胞には概日リズムは見られませんが、培養皿で細胞が筋肉や神経細胞などに分化してゆく過程で明瞭なリズムが現れてくることから、細胞分化と概日リズムには密接な関係があることが示唆されています。また動物の学習のしやすさは時刻により大きく異なり、記憶を司る海馬の概日リズムが関与することなどが分かってきました。

一方、頻繁なシフトワークなどにより概日リズムが乱されると、ガンやうつ病など様々な心身の病気を引き起こします。今後、概日リズムのメカニズムの全容を明らかにすることで、医療への応用の道が開かれるかもしれません。例えば、各個人の概日リズムに合わせて投薬の時間を最適にすれば、薬の効果を高めることも可能になります。自分自身の概日リズムと上手につきあうことが、健康で豊かな人生を過ごす秘訣かもしれません。

文責:榎木亮介
所属学会:日本生理学会、日本時間生物学会、日本神経科学学会
所属機関:北海道大学 電子科学研究所 光細胞生理研究分野