

第37回 それって心霊現象?幻視?:レビー小体型認知症の不思議
日本では超高齢化に伴って、高齢者の5人に1人が認知症と言われるほどになってきました。現在、認知症の原因として一番多く、約半数を占めるのはアルツハイマー型認知症ですが、二番目に多く、約2〜3割を占めるのがレビー小体型認知症です。
レビー小体型認知症は、レビー小体という異常なタンパク質の塊が脳の神経細胞に蓄積して起こる病気です。レビー小体の蓄積は40代から始まっており、何十年もかけて徐々に脳全体に広がっていくことで症状が出現してきます。レビー小体が脳幹部を中心に蓄積すると手足のふるえや動きのぎこちなさといった症状が出現し、パーキンソン病とよばれます。レビー小体が大脳皮質を中心に蓄積すると認知症の症状が出現し、レビー小体型認知症とよばれます。レビー小体の蓄積が脳全体に増えていくにつれて、最終的には両者の症状が混在するようになります。
レビー小体型認知症では、壁や天井の模様が人の顔に見えたり(錯視、パレイドリア)、本来存在しない虫・動物・人物などが見えたり(幻視)する症状が特徴的で、特に暗がりや夜間に見えやすいとされています。
幻聴を伴うことはまれで、患者さんによれば、まるで無声映画のように音や声を発せずに虫・動物・人物が動いている様子が現実と区別のつかないほど、ありありと見えるとのことです。
錯視や幻視は、記憶に関連する側頭葉や視覚処理をする後頭葉の神経細胞の機能が障害されるために生じると考えられていますが、詳しいことは未だわかっていません。
幻視に対しては、ドネペジルという認知症の薬やクロナゼパムというてんかんの薬を少量使うことで症状の軽減に役立つことがわかっています。
一つの例ですが、女性の患者さんで、亡くなったご主人とお姑さんが毎晩枕元に現れて、声を掛けても物も言わずにただ見下ろしてくるので気味が悪い、と訴える方がおられました。そこで、主治医の先生がドネペジルとクロナゼパムを少量処方したところ、次の診察では笑顔で来院され、「先生のおかげで主人も姑も無事に成仏しました。」と感謝されたそうです。世間でいう心霊現象の一部は、実はレビー小体型認知症の症状なのかも知れません。また、レビー小体型認知症では子供の幻視も多く見られ、座敷わらしの伝承の一部もレビー小体型認知症の症状ではないかとも言われています。
レビー小体型認知症の治療は未だ対症療法にとどまっており、蓄積したレビー小体を取り除く根本的な治療法の開発は難航しています。今後、さらなる病態解明と根治療法の開発が期待されます。
文責: 竹内 英之
所属機関: 国際医療福祉大学大学院医学研究科 脳神経内科学 教授
所属学会: 日本神経学会、日本神経免疫学会、日本神経科学学会、日本神経化学会、日本認知症学会、日本神経病理学会、日本パーキンソン病・運動障害疾患学会など