2012年10月22日

第2回脳科学将来構想委員会

【脳科学関連学会連合 第2回脳科学将来構想委員会 議事録】

日時

2012年10月22日(月曜日)13:00~15:15

場所

オンライン会議

出席者

(名簿順、敬称略)
委員: 岡部繁男、川人光男、小泉修一、本田学、高橋良輔、笠井清登、岩坪威、山森哲雄、中込和幸、岡本仁、尾崎紀夫、岡澤均、本間さと

議事

1.トップダウン型研究 新規プロジェクトの提案について
脳科学委員会による今後の脳科学関連の研究体制の検討の予定について、また、トップダウン型研究に関するWGがとりまとめた「トップダウン型研究 新規プロジェクト骨子案」について、担当委員より報告があった。これまでに脳科学研究戦略推進プログラム等で実施されてきた研究を踏まえて、今後の脳疾患研究に貢献する基盤技術開発の提案を行うべきであること、その内容として脳の情報処理過程の異常と物質的な変化をお互いに翻訳し、架橋するための方法論、ならびに客観的指標の開発を目標として「脳と心の統合バイオマーカーの開発(仮称)」を提案すること、が報告された。

この報告を受けて、委員より以下の意見交換があった。

  • バイオマーカー開発という提案は静的な性質のもので、具体的な研究内容を想定しにくい。バイオマーカー開発と言われるものには一方で患者の検査データのような現象論を扱う場合と他方では神経回路の機能的変化を反映した、特性パラメーターとして扱える場合が存在する。後者が重要であり、そのようなマーカー開発には実体としての脳科学研究が必要である。
  • 実体としての回路などの研究がバイオマーカーの開発に必要である事は当然だが、あえてその部分は今回の骨子案には含めていない。
  • バイオマーカー開発が疾患研究にとって重要であることは当然だが、マーカーの確立にはその背景となる病態のメカニズムが理解されることが必要である。またバイオマーカーの確立、という提案自体に、一般への訴求力がどの程度あるのか。
  • バイオマーカーの確立とその応用を実際に実施する際にはその前提となる病態メカニズムの理解や、マーカーの応用を目指した臨床研究の実施が当然付随するので、そのような研究を包含した計画案と考えるべきである。バイオマーカー開発という目標を設定することで、フォーカスされた研究開発を実施することが可能となる。
  • マーカーの同定を行うにはそれなりの時間と労力がかかることが想定される。具体的な数値目標の設定等も検討する必要があるのか。
  • 今回の提案は研究の枠組みについてのものなので、具体的に実施される研究の規模等により、その範囲で実施可能なバイオマーカー同定の規模も決まってくると考える。
  • 脳科学研究戦略プログラムでは基盤技術開発として課題G「脳科学研究を支える集約的・体系的な情報基盤の構築」が実施されている。この研究プログラムと今回の計画との関係はどう捉えるべきか。
  • 課題Gで進行中の開発プログラムとしては、疾患関連蛋白質やその修飾の同定、モデル動物の解析、情動に関わる神経回路の計算論的な解析などが実施されている。今回の提案とは大きくは重ならない。

以上の議論を経て、今回の提案を基軸として、具体的な研究内容の例を提案し、骨子の肉付けを進めることが承認された。



2.日本学術会議次期(22期)マスタープランについて
担当委員より、次期マスタープランの策定の手順についての説明があった。22期のマスタープランの策定に先立ち、平成25年1月までに学術研究領域の制定が行われること、マスタープラン案は分野別委員会で予備選考を行い、各分野最大30件を学術大型研究とすること、この中から更に25-30件程度を速やかに実施すべき計画として選択し、重点大型研究計画とすること、実施期間5-10年程度、予算総額数十億円超の計画であり、個別研究の集合や大型のグループ研究という捉え方をしない方が良いこと、これまでに既にマスタープランに取り上げられた脳科学にある程度関連した計画としては、「シームレス脳科学の創成を目指した計測・操作研究プラットフォームの設立」「心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築」「次世代高機能MRIの開発拠点の形成」「創薬基盤拠点の形成」などが挙げられること、コホート研究計画については震災復興の予算で「東北メディカル・メガバンク計画」が実施されることとなり、15万人規模の地域住民コホートと三世代コホートを形成することが計画されていること、この事業と学術会議におけるコホート・バイオバンク関連の大型研究計画の関連性についても議論があること、などの説明があった。
以上の報告を受けて、次の項目について委員長より提案・質問があり、議論がなされた。

  • 次期マスタープランの案は学会連合として一案に統一したものを作成すべきか
    委員より基礎医学、臨床医学を融合した案を作成すべきであり、この案は例えば第三部の分科会等への協力も依頼すべきである、との意見が出された。将来構想委員会としては学会連合が一致して推す事のできる統一案を今後作成していく事が承認された。
  • 今後のマスタープラン案の作成スケジュールについて
    提出締め切りが平成25年3月であることから、以下の作業日程が委員長より提案され承認された。
    平成25年1月中に将来構想委員会としての暫定案のとりまとめを行う。
    平成25年2月中旬までに学会連合の運営委員会、評議員会にこの案を提示する。
    平成25年2月後半から3月初めにかけて、修正事項の取り込みを将来構想員会において行い、最終案を取りまとめる。
  • 「シームレス脳科学の創成を目指した計測・操作研究プラットフォームの設立」と今回の提案の関連性についてどのように考えるべきか
    「シームレス脳科学」提案は前回のマスタープラン策定の際にはマスタープラン2011の46計画に採択されたが、「優先度が認められる計画」17計画の中には入ることが出来なかった。新しい提案は基礎と臨床の脳科学を融合させた提案とする必要があり、「シームレス脳科学」提案はその中で活かしていくべき、との意見が多く、合意事項とされた。

以上の議論を踏まえて、具体的な新案の内容についての議論を行った。まず委員より提出された9つの提案についてのサマリーを元に、共通する項目、独自性のある項目についての検討を行った。比較的共通する研究項目としては疾患モデル動物、コホート、バイオマーカー、社会性などが挙げられること、コホートとサンプルレポジトリーを全国多施設のネットワークとして形成することは臨床医学の観点からはイメージしやすい内容であること、自己と社会の関連性を解明する、というテーマはこれまでの脳科学を発展させる内容として魅力があり、モデル動物を利用して基礎的な研究としても展開が可能であること、などの意見が出された。

これらの研究内容に関する要素を盛り込みつつ、魅力的なゴールの設定を行うことが必要である、という観点から、暫定的な新案の目標設定として、委員長より以下の二つの項目が提案された。

  1. 要素還元主義を超えた新たな脳・こころ・社会を扱う総合科学の形成
  2. 精神神経疾患の予防・診断・治療における技術革新

この提案に対する意見が求められ、これらの目標は神経科学者のコミュニティー内部としてはきわめて適切な内容だが、他の分野が大型研究計画の目標として掲げている、国民に対して大きなインパクトを持つようなゴール設定に比較すると魅力に乏しいのではないか、という意見が出された。上記の目標を当面は暫定的なものとして利用する一方で、より国民への訴求力が高く、夢のある目標設定がどのようなものか、議論を継続することとなった。

以上の議論を基に、今後はマスタープランWGを作ってその中で具体案の作成を進めることが委員長より提案され、承認された。
次にWGのメンバーについて委員長より提案があり、7名の委員をメンバーとすることが承認された。

本WGにより12月中に素案を作成し、各委員からの意見の集約を12月後半から1月中旬に行うことが委員長より提案され、承認された。

以 上