2019年6月4日

2018年第1回(通算第20回)脳科学将来構想委員会

【議事録】

日時

平成30年11月16日(金)16:00-18:00

場所

東大医学部教育研究棟第7セミナー室(1304B)

出席者

伊佐 正(日本神経科学学会)、礒村 宜和(日本生理学会)、田中 沙織(日本神経回路学会)、笠井 清登(日本精神神経学会)、尾崎 紀夫(日本生物学的精神医学会)、池田 和隆(日本神経精神薬理学会)、尾藤晴彦(日本神経化学会)、定藤 規弘(自然科学研究機構)、花川隆(国立精神・神経医療研究センター)、岡本 仁(理化学研究所脳科学総合研究センター)、柚﨑通介(脳科学研究戦略推進プログラム)、大塚 稔久(革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト)、和氣弘明(CREST)、林(高木) 朗子(新学術領域・次世代脳)(敬称略)

欠席者

望月 秀樹(日本神経学会)、勝野 雅央(日本認知症学会)、阿部 修(日本磁気
共鳴医学会)

議事

1.脳科学将来構想委員会委員の互選により、尾藤委員が委員長に就任した。
2.委員長提案に基づき、WG1「2020年マスタープランへの対応」,WG2「ゲノム医学への推進に必要な疾患ゲノム」,WG3「臨床データべースとAIを用いた解析」,WG4「20年後,50年後の脳科学ビジョンの策定」の4つのWGを設け、集中的に議論を進めていくことが了承された。
3.委員は各WGに分かれ、2年任期期間中における目標設定と推進計画について検討した。特に、WG1とWG2については、公募日程や各種メディカルゲノム構想との連携の可能性を考慮し、迅速に対応していくことが了承された。一方、WG3とWG4については、中長期ビジョンをとりまとめ、発信可能な提言の策定を目標とすることが合意された。

脳科学将来構想委員会WG1-4での議論についての報告

WG1: マスタープラン2020への対応 (WG長:定藤 規弘(自然科学研究機構))
前回マスタープラン提案に修正を加え、将来構想委員会ならびに運営委員会との議論を通じ、2019.3月の締切までに提案をとりまとめることとした。主たる検討事項は以下の通りである。
(1)前回のテーマは、「意識」の解明を当初想定するも、最終的に「知能」解明へ変更したが、取り組む際の理論的枠組が明示されなかった。
(2)また、ロードマップ提案においては、現実的予算規模の設定が重要であることが指摘された。
(3)(1)に対して、今回は、脳機能へ適用可能な枠組みとして「内部モデル」を組み込むことが提案された。「内部モデル」とは、基本的に脳機能をベイズ予測装置ととらえる考え方であり、様々の階層、種に適用可能であることから、実験的なアプローチを進める上で適切な理論的枠組みと考えられる。
(4)このような枠組みでヒトの脳を対象に実験を行うためには、ヒト脳を対象とした非侵襲的脳機能画像法は必須であり、その装置配備と適切な運用、データ集積保守(データベース運用)のための整備を要する。
(5)一方で、回路レベルでの理解は、ヒト脳のみでは不十分であり、多様な種を対象とする実験的アプローチと、種間比較が必須である。
(6)(5)の重要性はfunding agencyにも理解されており、例えば国際脳でヒトと霊長類の種間比較が開始されているが、脳機能へのアプローチはげっ歯類や、小型魚類、線虫、ショウジョウバエ等でもそれぞれのレベルで行われており、脳機能理解に向けて知見が集積している。これらの知見を、種間を超えてつなぐために、イメージング技術開発が必要である。
(7)脳機能の新規可視化技術開発(計測技術)について、現在の血流量や、細胞内カルシウム濃度の変動など、時間的分解能の比較的低い手法を超えて、脳の領域間の相互作用をリアルタイムで可視化に向けて様々な技術開発の試みが世界的に進んでいる。日本においてもその開発環境を整えることが急務であり、その要点は実験者と工学系研究者の相互作用を促進することである。
(8)このような、理論的枠組に基づいた実験データ収集・蓄積と可視化技術開発の両輪により、10年後にベイズ予測装置としてのヒト脳機能を明らかにすることを目指す。
(9)そのための多次元イメージングセンターを設立することを提案する。
(10)(2)を念頭におくならば、精神疾患の病態解明と治療へ向けた取り組みであることを冒頭に述べておく必要があるだろう。
(11)前回の提案以降、部分的に予算化されたものとして、①国際脳によるMRIでの画像データ収集や種間比較、AIとの融合、②脳プロ意思決定での社会脳の可視化、③革新脳での調整費による内視鏡型顕微鏡の共同購入(いずれもAMED)などが挙げられる。このことから、長期的な研究方向としての「マスタープラン」をアップデートしつつ提示し続けることが、予算措置に向けて重要である。

上記議論に基づき改訂が進められ、将来構想委員会ならびに運営委員会での議論を経て、生理学研究所 定藤規弘を提案者とする改訂案が提出された。

WG2:ゲノム医学への推進に必要な疾患ゲノム(WG長:尾崎紀夫(日本生物学的精神医学会))

ゲノム医学の振興に伴い、脳科学・精神神経医学領域におけるゲノム情報を取り扱うプロトコールの樹立と全国の研究・診療機関への周知にAll Japanで取り組む必要性が高まっている。他疾患群においては、例えばがんゲノムのように、基礎・臨床の壁を越えて、情報集約を組織的に実行するネットワーク形成を進めているケースもある。そこで、疾患ゲノム情報集約に関する脳科連としての合意形成を進めていくため、WGを設けることとなった。
WGにおいては、精神・神経疾患に関して臨床・表現型情報と紐付いたゲノム情報のデータベース構築と、AI等を用いたデータ解析のためのファンディングとネットワーク作りが必要であるとの認識で一致した。本提言を作成するに当たっては、例えば、1. アルツハイマー病の先制医療はPS1変異等を有する患者さんを対象にする、2. 精神・神経疾患のうち難病等遺伝子疾患では遺伝子治療の対象となり得る、3. 遺伝子疾患(IRUDで新たに同定されたものも含む)を対象とした分子標的治療薬の開発推進、4. 中枢神経薬のpharmacogenetics(例:カルマゼピンの皮膚症状予測)の応用推進、等の点を盛り込み、精神・神経疾患ゲノム情報を集約することの必要性をまず伝えることが重要である。
また、WG2のみでは、精神・神経疾患ゲノム情報の幅広い実態をカバーすることが困難であるため、議論を進めるに当たって、精神・神経疾患を取り扱うナショナルセンターや大学などよりゲノム情報取り扱いに熟知しているメンバーを追加することとした。

WG3: 臨床データべースとAIを用いた解析(WG長:池田和隆(日本神経精神薬理学会))

精神・神経医学や脳科学の加速的推進のため、ビッグデータである臨床データのデータベース化と、これに基づくAI解析が不可欠となると考えられる。加えて、臨床的には、患者当たり一回だけの横断的なビッグデータ収集だけではなく、コホート研究のような縦断的な繰り返しデータ収集と解析を組織化し、プレクリニカルバイオマーカーのスクリーニングや開発へ結実させていく必要性が高い。
 本WGの検討に先駆けて、日本学術会議脳とこころ分科会や各種学会等では、停滞する精神・神経疾患新規治療法開発を回復させるためには、競争前産学官連携の重要性を取り上げている。ここで明らかになっている通り、バイオマーカー開発、リサーチツール開発、患者層別化技術開発、規制当局の理解、既存治験・臨床研究データの分析などをシームレスに進めるためには、研究開発基盤となる精神・神経疾患にかかわる臨床データベースの構築が不可欠である。これらの問題提起をさらに一歩進め、精神科と脳神経内科の領域を含むナショナルセンターを中心とする事業化への取り組みや、製薬協などを通じた製薬メーカーとの連携の模索も始まっている。本WGでは、これらの取り組みについて脳科連として検討し、加盟学会のニーズを調査して、拡大発展への提言を検討する。さらに集約したビッグデータの解析には、AI解析が有効と考えられ、AMED国際脳との連携の可能性についても、調査検討していく。

WG4: 20年後,50年後の脳科学ビジョンの策定(WG長:林(高木) 朗子(新学術領域・次世代脳))

脳科連の将来構想委員会の場において、プロジェクトベースの検討を離れ、中長期的にみた脳科学のビジョンについて、自由に対話をする必要性があることから、本WGが設けられた。
 研究推進のボトルネックになっている点は人的リソースが不足していること、とりわけ若手層を中心に“アカデミア離れ”が深刻に進行していることが各々の立場より述べられ、人的育成が火急の課題であることが確認された。“アカデミア離れ”の原因として、Googleなど高額な年収を支給する一部の企業が例として挙げられ、対策としては、アカデミアと企業での二項対立の構図を打破し、柔軟な雇用・研究体系を実現する枠組の拡充などの必要性・緊急性が高いという認識が共有された。さらに大きな問題は、研究者全般、とりわけ若手研究者における「考える時間」が著しく減少しているである。古典的な基礎研究分野などでは、特に閉塞感が強く、若手研究者が思考停止のような状態になっていること、「フィールドとしての共通の達成項目」を上げる必要性が挙げられた。
 一方、臨床研究分野においても、原理解明に基づく根本治療薬・治療法は実現しておらず、一剤でも多く新規治療薬を創出する目標を共有していく重要性が力説された。50年前を振り返れば、現在も主要な治療薬であるクロルプロマジンもLiも三環系抗うつ薬もすでに上市されており、50年前から治療法としてのブレークスルーはおこっていないという言い方も可能な現状がある。近年、精神疾患におけるゲノム変異の重要性が認識されているが、22qもRett症候群も発症起点であるゲノム変異は同定されているが、分子・神経回路レベルの病態が不明で、病態に基づく治療法がない。50年後の脳科学を語る際は、このような今の惨状を、未来の家族へは説明しなくてよいような世界を作り上げていく必要がある。
 その一方で、「フィールドとしての共通の達成項目」を掲げるのは良いとして、それとは別に、個々人のリサーチの方向性には多様性を担保すること、その中より将来ブレークスルーが生まれる可能性を秘めるヘテロな集団を作る土壌が極めて重要であるとの指摘も述べられた。
 脳科学は夢のあるフィールドとあることを若手研究者にアピールできること、その一環として、若手ポストの拡充が必須であることが挙げられた。

以上