ご挨拶

本年7月より2年間の任期で日本脳科学関連学会連合(脳科連)の代表を務めることになりました伊佐正(日本神経科学学会/京都大学)と申します。今後2年間、副代表の尾崎紀夫先生(日本生物学的精神医学会/名古屋大学)、斉藤延人先生(日本脳神経外科学会/東京大学)とともに脳科連の運営に携わって参ります。就任に際しまして、この場をお借りしてご挨拶をさせていただきます。 

人類の歴史の中で、自分の心のあり場所を脳に求めた先人の存在は、少なくとも古代ギリシャ時代に遡ります。それ以降、様々な紆余曲折はありつつも、私たち人間は脳と自己の存在との関係を考え続けてきました。そして「21世紀は脳の世紀」とも呼ばれるように、前世紀の終わり頃からこの20-30年余りの間に脳科学は飛躍的な進歩を遂げ、感覚、運動、情動、本能、記憶、学習、注意、意思決定、はたまた意識と無意識の関係に至るまで、脳の機能についての膨大な知見が集積されるようになってきました。また、精神や神経の病気は治らないと思われてきたのが、多くの疾患についての理解が進み、少なくとも一部については治療が視野に入ってくるようになりました。ただ、脳は超複雑系ですので、その機能を理解し、疾患を克服するためには、生命科学や臨床医学のみならず幅広い学問分野の力を結集する必要があり、そのような思いが、8年前に私たちが日本脳科学関連学会連合(脳科連)を作るに至った原動力でした。

2012年に産声を上げた脳科連は、この8年間に成長を続け、現在31学会、延べ11.1万人(重複あり)の会員を有する組織に成長しました。それとともに、様々な社会的責任を負うことになってきています。特に、昨今のコロナウイルスの感染拡大により、多くの人がこれまでのように働き、学び、楽しむ機会を奪われることになりました。感染の拡大については、多くの皆さんが協力して行動の自粛を受け入れたことや医療関係者の皆さんの努力によって何とか最初の波は克服されつつありますが、今後これによって多くの人が受けた「心の傷」をどのようにして癒していくかが重要な社会的課題になってくると思います。そのような状況に対して既に各種団体からの声明が出されていますが、このような時に脳と心の専門家集団である脳科連が社会に対してメンタルヘルスの重要性を訴える声明を発し、行動していく必要があるという議論になり、山脇前代表を中心として脳科連としての緊急提言をまとめて発することに致しました(「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係るメンタルヘルス危機とその脳科学に基づく対策の必要性に関する緊急提言」令和2年6月25日発出)。このような対応が今後も様々な局面で求められてくるのだろうと思います。今回は緊急提言でしたが、長期的視野に立つ提言などは、今後も評議員の皆様を通じての各学会からの意見の集約や将来構想委員会の議論を基盤として発信をして参りたいと考えています。

一方、脳については様々な言説があり、時には多くの人を惑わすような情報がマスコミやネットを通じて拡散されることがあります。国民の多くが知りたいと思う脳とこころに関する疑問について、学術的に正しい知識を発信することも私たち専門家集団の責任であり、この間、脳科連のホームページでは多くの「脳科学豆知識」を掲載して参りました。このような地道な努力も意義あることと思います。また、前任の山脇代表の際に国際ブレインビー(脳科学オリンピック)に日本の高校生を代表として選出し、本番の前に脳科学のことを多く学んでもらった上で、本選に臨んでもらうという活動を脳科連が主体となって行うことに決まりました。これも次世代の脳科学を担う人材、また脳科学についての高いリテラシーを持つ若い世代の育成には役立ってくれることと期待しています。

今後とも加盟学会の会員の皆様に脳科連の活動をよくご理解いただくための透明性の高い運営を心掛けるとともに、国民の皆様に対する広く、かつわかりやすい情報の発信に努めて参りたいと思います。宜しくお願い致します。

 
 
 
 
 
 
2020年7月1日 
日本脳科学関連学会連合 
代表 伊佐 正