会長挨拶

 科学の対象は多様ですが、最も身近にありながらその本質に迫ることが難しいのが脳という臓器です。脳は他の臓器と同様、細胞から成り立ち、血液の供給を受けて活動し、エネルギーを使って日夜活動しています。一方で脳は我々の「こころ」の基盤であり、ヒトが喜び、悲しみ、考え、未来に希望を持つことができるのは全て脳の働きです。臓器としての脳の理解を進めつつ、「こころ」として現れる脳の機能に到達することが脳科学の一つのゴールです。脳の物質的な理解と「こころ」と呼ばれる精神機能を結びつけるために、脳科学は多くの学問分野と協働、融合しながら発展してきました。脳科学の核となる医学、生命科学が一方で物理学、化学、工学と結びつくことで実験科学としての広がりを獲得し、また他方で人文社会科学とも連携することで社会における「こころ」の問題にもアプローチすることが可能になりました。さらに脳の情報処理のメカニズムは、コンピューターサイエンスにおける新しい情報処理概念の発展にも貢献しています。このような広い裾野を持つことが脳科学の特徴です。

 脳の理解はさらにヒトの病気の根本的な原因を明らかにし、その診断や治療を前進させるためにも役立ちます。日本は高齢社会となり、認知症を初めとする精神・神経疾患が社会に与える影響は極めて大きなものになりつつあります。高齢者が健やかな人生を送るためには脳の疾患の克服が大きな課題であり、診断・治療法の開発には脳の基礎研究と臨床応用をスムーズに行うための研究体制を充実させる必要があります。

 脳科学は研究すべき内容と研究技術が多様であることから国際連携により研究を推進する必要があります。ここ数年で米国、欧州、さらには日本で脳科学の国家プロジェクトが開始され、日本では「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(革新脳)」が2014年より開始されました。国家プロジェクト間の連携による脳科学の推進も求められています。

 このような多様かつ融合的な脳科学をより一層推進するために、2012年に脳科学関連の学会を代表する組織として日本脳科学関連学会連合が設立されました。初代代表の宮下保司先生、それを引き継がれた水澤英洋先生のリーダーシップにより、本連合は順調に発展し、脳科学に関連した意見表出や研究推進の方向付けにおける役割は益々大きなものとなりつつあります。

 この度、2016年5月28日に開催された第5回評議員会において、代表として日本解剖学会常務理事の岡部繁男、副代表として日本神経精神薬理学会国際学術委員長の山脇成人、日本神経学会代表理事の高橋良輔の各人が選出され就任いたしました。本連合のこれまでの成果を更に発展させ、より一層の社会貢献に邁進したいと思います。皆様の温かいご支援をお願い申し上げます。

okabe

 
 
 
 
2016年7月1日   
日本脳科学関連学会連合   
代表 岡部 繁男