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第25回 子どものてんかんと発達

はじめに
子どもはけいれんを起こしやすいというイメージは多くの方が持っておられると思います。小児期のけいれんの代表は熱性けいれんですが、てんかんも発症しやすい時期です。

小児てんかん
脳の活動は神経細胞の電気的活動によります。てんかんは発作的な脳の異常電気活動によってけいれんなどの症状が繰り返し起こる慢性疾患です。てんかん発作にはけいれん以外にも様々なタイプがあり、けいれん症状は伴わないで意識が変化するもの、瞬間的にピクッと動くものなどがあります。一言で小児てんかんと言ってもこれまた様々なタイプがあり、発作が止まり易いものと色々な治療をしてもなかなか発作が止まらない難治なものの両極端に分かれます。

発達性てんかん性脳症
難治てんかんの代表が発達性てんかん性脳症です。問題なのは発作の持続に加えて重度のてんかん性脳活動つまり強い脳波異常パターンが認知機能や行動を悪化させたりすることです。例えばウエスト症候群は点頭てんかんとも呼ばれ乳児の発達性てんかん性脳症の代表です。その発作は瞬間的にカクッとおじぎのように頭部を前屈したり、両上肢をピクッと伸ばしたりする動作を繰り返すもので、強い脳波異常のために発達が停滞したり退行したりします。てんかん発作そのものが生活の支障になるばかりではなく、てんかん性の異常脳活動が発達に悪影響を与えることは重大であり、多くの医療者・研究者が解決のために日々努めています。

てんかんの原因は多彩ですが、最近特に注目されているのが脳の発生過程での形成異常と素因です。脳形成異常はMRIなどの神経画像検査で明瞭に写るものもあり分かりにくいものもありますが、これが検出でき、色々な検査結果と照らし合わせててんかんの原因になっていることが確定し、しかも限局していれば脳神経外科手術で止まらない発作を止めることができます。小さな子どもで脳を切るというと驚かれるかもしれませんが、乳児でも可能で、しかも幼いほど脳は失った部分の機能を残った他の部分が代償することができます。発達性てんかん性脳症の子どもで、手術で発作が止まると発達が見違えるほど良くなることを沢山経験しています。

注目されるもうひとつの原因である素因は、突然変異などで遺伝子が変化して、てんかん発作や発達の障害を起こすもので、実に多くの遺伝子の変化があることが分かってきています。このような遺伝子変化は新たな治療のターゲットになる可能性があります。精密医療と呼ばれ現在脚光を浴びている考えですが、患者さん個々人の遺伝子パターンや体質に合わせた治療で、病気を根本から治そうとするものであり、今後の飛躍的な進歩・発展が展望されます。

このような小児てんかんの原因究明と治療法の進歩に関心を持って頂ければ幸いです。

文責: 小林勝弘
所属: 岡山大学学術研究院医歯薬学域 発達神経病態学
所属学会: 日本小児神経学会